偽善者

   

退職が決まり一夜明けて昨日は夜勤だった。

いつもの時間にいつもの道をいつものように走った。

坂道は自転車を立ちこぎし、混んだ狭い交差点では自転車から降りて信号待ちをする。

判で押したように同じ動作をした。

 

夜勤の時は、夜食に甘いお菓子を持っていく。

それを買い求めるコンビニにもいつものように寄った。

 

職場から逃げ出すことに迷いも後悔ももうあるわけないはずなのに、

一年間通いなれた街並みはただの風景ではなくなっていた。

着古したTシャツが素肌にしっとりと馴染むような質感を漂わせていた。

 

まだ後ひと月以上も勤務は残っている。

決断に後悔はないのに寂しい思いは自分で思っている以上に大きくなっていくものだ。

 

夜勤帯は朝も忙しい。

朝ごはんの時間になっていてもリビングに出てこない方の部屋へ行った。

声かけに食欲がないという。

パンや牛乳だけでもと勧めると、

「そうやな」

「あんたの顔見てたら食べれる気がしてきたよ」

そういいながら差し出したわたしの手を握り締めはらはらと泣き出した。

「ようしてもらえてありがとう」

「家族でもこんなにしてもらわれへん」

「ここにおる人はみんな淋しい人ばかりや」

たどたどしいながらも言葉を淀みなく繋いで話した。

 

 

もらい泣きは得意分野。

「また来てくださいね」

というのが精一杯だった。

今日退所予定のその人の次の予定がいつになるかわからない。

それなのに、もうここにわたしは働いていないかもしれないのに、

そんな事をいう自分を偽善者だと思った。

 

昼前に重い体を引きずって家に帰った。

夕方にはまた出かける夫が野菜スープを作ってくれた。

 

「休みになったら伏見稲荷へでも行こうか」

さりげなく簡単にかけてくれる言葉。

 

どんな時もこの人が傍にいてくれる。

まる裸の心の裏側も見せられる人が存在するということは、

母の懐に抱かれる心地よさととても似ているものだと思った。

 

 

 

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