アクシデント

   

島に帰るその日は曇り空。

最高気温予想は一桁だったが、テンション高めの我が身は、

毛皮と名の付くものの感触すら知らないのに、高級毛皮でも羽織っているつもりでぽかぽかだっだ。

 

乗り換え乗り継ぎで空港まではとんとんと調子よくたどり着き、

空港内の売店で手土産を買って、菓子パンをほおばりながら

パノラマのガラス越しに滑走路を眺めていた。

 

飛行機は予定通りに飛び立ち、

このまま何の問題も無く目的地に着くとばかりに思っていた・・・が、

 

離陸して30分経った頃、機長が飛行機にトラブルが発生した旨を話始めた。

そしてあろう事か今さっき出発したばかりの空港に戻るというではないか。

しかも、着陸するには機体が重すぎるので積んでいる燃料を消化する為に、

1時間ほど四国上空で旋回すると言う。

 

故障の警報が点灯しているのに1時間も飛び続けて大丈夫なのだろうか。

素人考えだが不安が湧いてきた。

機長の話し言葉の様子は淡々としていて、到着地の天気を知らせているのと同じ口調だった。

同じく客室乗務員も顔色1つ変えなかった。

こういう時の訓練はいやというほど受けてきただろうから対応は完璧ともいえるものだった。

 

 

 

窓際の座席に座っていたわたしの真下にはスッと真横に伸びた翼があった。

その背景は白い雲と雲の間から見える濃い色の海があって、陸地も見え隠れし、

飛行機が旋回するたびに縦になったり横になったりと変化していた。

 

落ち着いて窓を眺めているつもりであったが、ドキドキ感はどんどん高まってきた。

空港着陸時にエンジンが燃え出したというドキュメント番組を思い出したから

たまったものではない。

この飛行機もあれと同じように今すぐに爆発して燃え出すのではなかろうか。

酸素マスクってどうやってかぶったかな・・・

陸ではなくドボンと海に落ちたらどうしよう。

終いには死ぬんだったら痛くありませんように、旅行保険かけておけばよかったとか

支離滅裂な妄想が出没した。

 

ところがだ、周りを見れば他の乗客の冷静な事。

一人客室乗務員に一言二言話している姿以外には全く変化なし。

引き返して修理して再び目的地に迎えるかどうかもわからない状態を目の当たりにして、

パニックにはならないまでも質問攻めでもあるのかと思ったが、全くなし。

電車が停まって駅員に文句を言っている姿を見かけたりするものだから、

空の上でも同じような状態になりそうだが、そんなのはなかった。

日本人はほんとに冷静で秩序正しい国民なんだなあと感じた。

 

空港に戻りトラブルの究明が行われた。

結果、オイルの漏れと何らかの部品破損で即日の修理が不可能になり欠航が決まった。

結論が出た時間は夕方の6時をとっくに過ぎていた。

 

「今日帰るからね」

と大声で母親に電話したのに田舎へは帰れず。

家を出たのは11時、大空をグルグルと回るだけ回って帰るなんて・・・

夕方のラッシュに、さらにはお土産の大きな紙袋も増えて。

毛皮のコートをまとっていた気持ちは空の上に置き忘れ、疲れてよれよれになって自宅に戻った。

 

ごめんね。母さん・・・。

 

 

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