「どいてよ!」

わたしはスーパーの青果部門で働いている。
週4日勤務で、大体3日はバッグヤード業務で残りの一日は品だし業務だ。
品だし業務は商品を台車に乗せ陳列する作業だ。
買い物するお客様の邪魔にならないように、
商品をすばやく綺麗に並べつつ、
お客様から声をかけられれば、部門関係なく最優先で対応しなければいけない。
うちの店はいわゆる大型店舗ではない。
店舗の大きさから言えば中型の部類になる。
となると通路が広くない。
買い物カートを押したお客様とはすれすれ状態、
ぶつかったりすれば大問題になるので、常に最新の注意を払う。
接客業務はわりと好きだし、店頭に出るのも楽しい。
常にお客様優先で。
それはスーパーで働くものの常識だ。
ところが、そうはいっておれない事情もある。
品だしが遅れれば商品が薄くなり、
「ないですよ」と催促されて慌てるという事態に陥る。
うまく手際よく、時にはちょっと強引に・・・
その辺の匙加減も板についてきたつもりであった。
ある日のこと。
その日もチラシが入って朝からお客さんが沢山来た。
例のごとく必死に品だししていると、何やら背中に視線を感じた。
振り返ると買い物籠を持った女性が立ってこちらをじっと見ていた。
髪は肩ぐらいの長さで黒い服にマスクといういでたちであった。
「いつになったらどくのよ。取れないじゃないの。どいてよ」と。
しまったと思った。
「申しわけありません」とすぐに謝り台車をひいた。
その女性は一袋100円のナスをひとつ取り、
「全く・・・配慮がなさ過ぎるわ」
とぷんぷん、店内中央へ歩いていった。
かなり怒っていた。
困った。
クレームがくるかもしれない。
どうしよう。
でも、あんな言い方しなくてもいいんじゃないの。
手を伸ばせば取れるスペースは確保していたつもりだし、
何より一声かければすぐにどくのに。
とわたししきりに自己弁護。
終いにはクレームが来たら来た時だと開きなおっていた。
それから数日たち、結果、クレームは来なかったが、
以後わたしは、身体の後ろ側にも目を沢山つけているつもりで品だしをするようになった。
お客さんの気配を敏感に感じ取るようにアンテナを4本ぐらい立てて。
お陰様で「どいて」なんて言葉はあれ以来一度も聞いていない。
そうなると話が変わってくる。
あのお客さんはわたしの出来てないところを指摘してくれてたんだ。
やっぱりお客様は神様だ。


