神風
2017年6月2日

夜勤明け、昼前に帰ってきて一眠りした。
布団などひかずラグの上に毛布を引っ張り出して丸まって寝た。
東側の小さな窓から風がすーすーと入ってくる。
レースのカーテンが風に押されては戻り、戻っては押されを不規則に繰り返している。
海辺の波打ち際によく似ているなあと、半分塞がったままのまぶたで眺めていた。
夜勤を一回終わると二日分勤務した勘定だ。
わたしは介護経験浅い初任者なので1人夜勤ではなく、経験豊かな先輩介護士さんとペアで勤務する。
お互いに2時間ほどの仮眠を取れるのでそのへんはいい。
特に気が合わないという相手でなければ楽しいおしゃべりの時間も取れ、
普段の勤務では話せない事などもつらつらと話せるというもの。
昨夜の夜勤はそんな日だった。
ゆっくりと流れる時間に意固地に固まった心がほぐれていくのを感じた。
違う風が吹くかもしれない。
根拠のない希望が僅かに芽を出した気がした。
群れから離れ、みっともなく背中を丸めていたわたしの苦しみを見てくれている人がいた。
「変えよう」
「何とかしようよ」
「ホンとは皆が苦しんでいるから」
みんなも必死にもがいている現実が目の前にどんと現れた。
その夜は、竜巻注意報が発令され風がぐるんぐるんと回っていた。
ぴしゃりと閉められ空調の効いている室内には、外の風の勢いはまるで感じられなかったが、
瞬時にこれは「神風」だと思った。
そうだ!
「神風」が駆け巡っているんだ。


