夢を切り捨てる

 

先月中ごろ田舎に帰った。

 

実家は、母親と弟夫婦が同居している。

一時期は、このまま寝たきりになりはしないかと心配した母親だが、

車椅子でトイレにもいけるようになっている。

懸命にリハビリしている母親とお世話してくれている弟夫婦には感謝だ。

 

母親は、日中ディサービスに出かけている。

それ以外の時間、一緒にテレビを観たりおしゃべりをしたり窓から外を眺めたり。

母親と二人のんびりと時間を過ごしていた。

 

わたしは将来「トトロの森」に住みたいと思っている。

ささやかな夢だ。

家は小さくてもおんぼろでも構わないが庭があって土があるのが理想だ。

夜は星を眺めながら寝、あさにはすずめのさえずりで目覚める。

庭には季節の花が咲き、まっかなトマトが生っている。

 

頭の中には、わたしのトトロの森は生まれ育ったふるさとの小さな島かもしれない。

半年間母親の介護をして暮らしながら、そんな思いがうっすらと描き出されていた。

 

しっかりと働いて力をつける。

3年間はガッツリと。

「家は掘っ立て小屋でも構わないから」

母親にそんな夢の話をした。

喜んでくれると思っていた。

 

わたしは島を離れ遠方で暮らしている。

心配も人一倍させているのも承知していたから、

そばにいればいろんな心配事から開放させられるのではと。

 

ところが、怒られた。

「自分の子供の近くで暮らすのがいい」と。

短い言葉の裏に何があるのか痛いほどわかった。

 

身体が不自由になってしまった現実、長年連れ添った伴侶との死別。

耐え難い人生の後半戦を生きている母親は、自分の身を嘆いてばかりいた頃とは違って強かった。

きりりとわたしの夢を切り捨てた。

 

母親としての強さだと思った。

女は、どこまでいっても母以外の何者でもなくて母としてずっと生きていくものだ。

しわしわの顔の中で小さな瞳がそんな光を放っている気がした。

 

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